あれは、2012年だったでしょうか、墨田区の工場や工房を一般に開放する、大人の工場見学的なイベント「スミファ」に行ったときのことです。
墨田区内には、なんと約3400もの工場や工房があって、紙、革、金属、ガラスなどいろいろなものをつくっているものづくりの街なんですね。「スミファ」は、すみだファクトリーめぐりの略で、そんな墨田区をPRするイベントなんです。
板金屋さんや風船工房、染物屋さんなど、地図を片手にいろいろと巡り歩いていると、ちょっとレトロで雰囲気のある外観のプレハブに出会いました。
中を覗いてみると、何かの工房らしい。入り口は狭いですが、奥行きがあるその場所は、硝子をつくる工房でした。
「硝子企画舎」と名づけられたその工房は、複数の若手作家が集い共同で制作作業をする場所でした。面白い場所だなー。誰がこういう場所を立ち上げたんだろう?その日はオーナーさんは不在で、その後もお会いすることもないまま、時は過ぎていきました。
SHIBUKAWA+の第二弾は、夏をテーマにしよう。で、夏だったらガラスがいいね。と、きっかけは結構あっさりとしたものでした。
でも、今思えばその頃の僕らは、ガラスというものについて全く理解していませんでした(汗)
誰と一緒につくろう?と考えていたときにふと頭をよぎったのが「硝子企画舎」でした。初めてスミファで出会ってから、気がつけば2年半という歳月が流れていました。で、趣旨をお伝えすべくメールを送ると、、オーナーが直接会ってくれることに。
はじめて作り手の方とお会いするときって緊張しますね。頑固一徹な感じなんだろうか?シブカワって何だ、ものづくりなめてんのか?と怒られるのだろうか?とビクビクしながら、あの個性的な建物の前までやってきました。錦糸町から徒歩10分くらいの工業地域にある「硝子企画舎」に。
僕たちの不安を他所に、中から出てきた硝子企画舎のオーナーである井上剛さんは、なんとも穏やかな笑みで迎えてくれました。
SHIBUKAWA+について説明をさせていただき、アイデアもいくつか提示させていただきました。キチンとお話を聞いてくれて、一緒にトライしてくれることに前向きでした。
しかし、僕らはガラスについて全くわかっていないということに、井上さんのひと言で知ることになります。
「頂いたアイデアはどれも面白いですが、全て“吹きガラス”ですね。私たちは“キルンキャスト”をやっているんです」・・・。
う、しまった。明らかな勉強不足。てっきり吹きガラスなのかと思っていた。なんとも失礼なことをしてしまった・・・。これは断られるな・・・。
そう思いつつ恐る恐る、うつむき加減で「キ、キルンキャスト、って何ですか?」と聞いてみました。
目線をあげて井上さんを見ると、先ほどと変わらずとても穏やかな笑みを浮かべてキルンキャストについて説明してくれたのです。ホっ。。
ひとことでガラスといっても、いろんな技法があります。(・・・と教えてくれました)
冷えた状態で削ったり研磨して形作る江戸切子などに代表される「コールドワーク」。逆に熱を加えて溶かした状態で形作る吹きガラスなどに代表される「ホットワーク」。そして、電気炉で熱変形させて形作る、硝子企画舎さんが得意とするキルンキャストに代表される「キルンワーク」。キルンキャストは、その中でも石膏型で成形するガラスの鋳造技法です。
もうすこし分かりやすく言うと、硝子の粒を型に入れて電気炉で熱を加えることで、溶けて形ができあがるという技法です。
つまり、「型」を前提とした技法なんですね。僕らが勝手に想定していた吹きガラスのものとは完成品の形状が全く異なるんですね(汗)
僕らとしては、作り手の持つ強みを活かした新しいアイデアを企画にしたいと思っているので、「キルンキャストを前提として企画を考え直すので、ぜひ一緒にやってくれませんか?」というと。
井上さんは、変わらず穏やかな笑みを浮かべて「そういうことであれば、是非」といってくれました。よかった!ありがとうございます!
井上剛さんは、ガラスを家業とする家庭の男5人兄弟の4番目。
もともとものづくりが好きで、幼い頃はカーデザイナーに憧れていたのだとか。
お父さんの戦略で、それぞれの兄弟が器や電気など別々なものづくりを学んだとのこと、なんともユニーク!そんな中、ご本人は大阪芸大陶芸科へ。最初はガラスではなく器を学んでいたのです。
でも、在学中にガラスを学び始め、結局そちらの世界に。
その後、富山、金沢、東京新木場、金沢、東京世田谷と転々とし、最終的にガラス文化に飛び込みたいと墨田区に「硝子企画舎」を構えることになったそうです。2006年のこと。
硝子企画舎という共同工房を立ち上げたのは、若手作家が思う存分作品づくりができる場所が少なく、その環境をなんとか整えたいと思ったから。ガラスを好きで好きでたまらなかったというよりも、ガラスを生業とする家庭で育ってきた使命感みたいなもの、と照れくさそうに言っていました。
硝子企画舎というネーミングには、ガラスを通じて、人と人をつないだり、新たな輪のハブになりたいという想いが込められているそうです。
一緒に目標を達成する喜び、ハイタッチできる喜びを感じることができて、それがとても新鮮だった。と井上さん。
街のガラス屋でいたい。
街のバイク屋みたいな感じで。
硝子企画舎は、きっとこれからも、静かに太い根をはっていくことでしょう。
SHIBUKAWA+summer
いったいどんなものができるのか!?
お楽しみに!
硝子企画舎
-
沿革
-
- 2002年
- 金沢市にて「アトリエプリズム」開設 キルンワーク講座と小規模な体験ワークショプを実施(2005年まで)
-
- 2006年
- 拠点を東京に移し「硝子企画舎」としての活動を開始。 江東区に「佐賀町工房」を開設・ガラス工芸体験講座とキルンワーク講座を開始
-
- 2007年
- プリズム atelier + gallery を世田谷区の自宅に併設。 作家作品(うつわ&小立体)の展示販売の他、企画展、ワークショップを開催
-
- 2012年
- 工房を墨田区石原に移転。ギャラリープリズムプラスを新工房内に併設
- 代表
井上 剛
-
所在地
硝子企画舎/プリズムプラス
〒130-0011 墨田区石原4−16−7
phone/fax 03-5608-9392
-
Written by 中川所長
広告会社のマーケティングディレクター。
日本のものづくりが大好きで日本シブカワ研究所を立ち上げる。
特にやきものと落語にハマっている。
好きな言葉「勝手に生きよう by 立川談志」